嗅覚が優れている人・あまり匂いがわからないって思う人、この匂いはいい匂い・いやこれは悪臭だ!など人の嗅覚はいろいろな感じ方の違いがあり、経験的に差があるのかな?って意識する場面があったりします。
では本当に嗅覚能力って差があるのでしょうか?論文などから見ていきましょう!
ところで話変わるけど嗅覚に個人差なんてあるなら嗅覚測定なんてできないんじゃない?
たしかに、個人がみんな全く違う感覚を持ってたらそうなるよね。
色で例えるとみんなが「赤」だと感じるものって実は人によって見え方が違うかもしれないし、でも「熟したりんごの色」だとか「イチゴの色」だとか言えばその色を共有できるよね。
嗅覚も同じで「蜂蜜の匂い」だとか「にんにくの匂い」だとか言えば感覚を共有することができます。
その感じ方の程度は人それぞれだとしても、嗅覚検査ではその個人差をある程度許容したうえで「正常な嗅覚」をもつ人が一般的にその感覚を共有できる5種類の匂い物質に絞った上で「正常な嗅覚を有する」としています。
全然わからないけど。個人差はあれども嗅覚検査に合格したら一応は「正常な嗅覚を有する」ってことの証明になるのかな。
まぁパネル選定ではそういうことになるんだけどね。でも実際にすべての匂い物質でちゃんと感じるか感じないかを調べるのは容易じゃないし、「正常な嗅覚」の定義って難しいからね。嗅覚の異常については嗅盲や嗅覚脱失のページを復習してね。それを踏まえて嗅覚能力の個人差を見ていきましょう。
個人差と嗅覚
はじめに結論から言いますと、個人差は間違いなくあります。
人の嗅覚は極めて鋭敏で、感知しやすいものでは、僅かプールに1滴ほどの濃度の分子でも感じとることができます。有名な例では最強の匂い物質とも言われるトリクロロアニソールなどがあげられます。
しかし、嗅覚を司る嗅覚受容体の嗅覚受容体遺伝子の配列にも影響を受けている可能性が近年示唆されています。同じ嗅覚受容体であっても、そのアミノ酸配列が個々人で異なることがあるということです。
このことにより、生まれながらにして人はにおいの感じ方に若干の違いが生まれる可能性が示唆されています。
具体的な物質ではβ-イオノンとアンドロステノンではこの受容体の差により嗅覚の感じ方が異なるとの論文が発表されています。
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/10/65_524/_pdf
Current Biology Volume 23, Issue 16, 19 August 2013, Pages 1601-1605
Nature 449, 468 (2007). doi:10.1038/nature06162
その上、前のお話で、嗅覚には順応や促進などの効果や人によっては嗅盲や嗅覚脱失が発現している場合があるため、さらに個人の嗅覚能力や感じ方の差が生じてしまいます。
個人差による嗅覚測定への影響
そんなに個人差があるのなら臭気判定士による嗅覚測定法って眉唾なんじゃないの??
というお話になってしまいますが、そこで生み出されたのが第一回でもお話ししたT&Tオルファクトメーターです。
様々な試行錯誤を経て生み出されたこの嗅覚測定法で、合格した者は日本国内で正常な嗅覚を有していると判定され、嗅覚パネルとして参加することができます。
嗅覚測定法は悪臭対策・臭気苦情は健康を害する物質濃度が基準値未満かどうかを調べる方法ではなく、あくまで、人間が「臭い」と感じたものに対しての測定法です。
ですので、言い換えれば多少の個人差があるのを許容しています。
T&Tオルファクトメーターによる検査に合格した者を一般的な嗅覚を有するパネルとして採用することで、その悪臭はどの程度のにおいを放っているかを算出します。
T&Tオルファクトメーターの合格割合は95%と言われているので明らかな嗅覚異常を持っていると思われる方を除くことが出来ます。(スカトールの匂いが感じづらい人に、養豚場の臭気を見てくださいと言われても酷な話ですしね。。)
年齢と嗅覚
歳老いてくると、例えば耳が遠くなる、老眼が進むなどその能力は個人差があれども低下いたします。
嗅覚においても例外ではなく、下記参考論文では、嗅覚識別能力(認知能力)でのピー クは30から50歳代に見られ、70歳代では有意に低下(閾値が高くなる)することが示されております。
しかし、検知能力はあまり変化しないとの報告もあります。
他の感覚では20代がピークなものが大多数なのに、嗅覚は30代から50代がピークなのは少し面白い結果ですね。
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/95/9/95_9_1339/_pdf/-char/en
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6051304/
性別差と嗅覚
女性の方が男性より嗅覚感度は高い傾向にあると統計的には示唆されております。
しかし、福島県立医科大の池田氏らにより、アセトン・アリナミン(プロスルチアミン)・スカトールに対しての男女差の実験を行ったところ、アセトン、アリナミンは女性の方がやや敏感に感じるのに対し、スカトールは男性の方がやや敏感に感じとることができると報告されております。
ですので、匂い物質によっては男女の匂いの感じ方に差があるとの見解もできそうですね。
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshhe1931/27/4/27_4_295/_pdf/-char/en
喫煙と嗅覚
よく言われるのが、タバコを吸うと嗅覚が低下するというお話ですね。
確かに嗅覚に影響を与えるとの報告は事実です。しかし、喫煙による疾患を除いてはにおいの種類により異なるとの見解で実はあまりはっきりとしていません。
検知閾値とにおいの同定能力(何の匂いか当てる能力※濃度は関係ない)を非喫煙者と喫煙者で比較したところ、同定能力では有意な差が見られなかったが、平均検知閾値では非喫煙者に比べ閾値が高くなるとの報告もあり、全ての嗅覚能力が一様に低下するとは言えないのが現状です。
また、喫煙者であっても、嗅覚検査(5-2法)に合格すれば嗅覚測定のパネルとして参加することができます。もちろん、喫煙に伴う嗅覚障害となってしまえば話は別ですね。
参考:嗅覚概論 -においの評価の基礎-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/69/3/69_20-21/_article/-char/ja
まとめ
匂いを操る調香師や、ウイスキーの配合を管理するブレンダーでも男性、女性、喫煙者や高齢な方など千差万別な人々が働いておりますが、これらの結果から同定能力はそう簡単に失われるものではないことを示唆しておりますね。
しかしながら、認知能力は老いなどには勝てずに低下してしまうという結果でした。
しかしながらこのような五感をフルに使うような職種の方なら長年の経験で積み上げた感覚でカバーしていくのではないでしょうか。(これはあくまで個人の意見ですが)
能力差はあれども、嗅覚測定を行うにおいては嗅覚検査に合格さえすれば、日本においては一般的な嗅覚を有すると判断されますので、パネルとして参加することができ、且つ臭気判定士にもなれます。
以上、嗅覚能力についてまとめます。
・70代になると嗅覚閾値が上昇する(感度が低下する)。
・高齢でも検知能力はそこまで低下しない。
・嗅覚における男女差はあるが、におい物質によって感度が異なる。
・匂い物質によっては遺伝子の配列差異によって感じ方が異なるものもある。(β-イオノン、アンドロステノンなど)
・喫煙者は嗅覚閾値が高くなる傾向があるが、同定能力に差は見られない。
・嗅覚検査に合格しても、すべてのにおい物質を感じ取れるわけではない。
においの感じ方はこれ以外にも文化や食の嗜好などによっても変わると思われます。僕はシベット(ジャコウネコの香料)の香りが大嫌いですが、別の哺乳類から取れる動物香料のカストリウム(ビーバー)の香りはなぜか結構好きです⌬笑
嫌いな香りってそれ自体のにおいの閾値が低いのもありますが、感じ取りやすい気がしますよね⌬
たまにめっちゃ臭い付けて帰ってくるから覚えてきたわ。
門前の小僧ですねー⌬
だれが小僧だよ失礼な、化合物顔のくせに
ピネン
余談ですが、今年(令和2年)の臭気判定士試験は11月7日(土)で、願書の締め切りは9月4日(金)です。今年はこのブログで全てをカバーするのは難しそうですが、できる限りのことはしたいと思いますので、Twitterや質問箱等で質問受け付けております!今後ともよろしくお願いいたします⌬!
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